【科学読み物】
 
     
 〈うずまき化石〉のなぞ                   6版

 ぼくの名前はけんたです。小学生のころから石や化石に興味を持っ
ています。それは,となりのお兄さんがときどき,きれいな石や化石をと
りにつれて行ってくれるからです。お兄さんは大学で石の研究をして
います。
 きょうは, そのお兄さんと化石をとりにいく日です。ぼくは, 朝からうれ
しくてたまりません。
 朝ご飯を食べてしばらくすると, お兄さんの車の音がしました。ぼくは
,さっそく車に乗せてもらって, 近くの山に向かいました。川原につくと,さ
っそく化石探しです。きれいな水が流れています。
「しましま模様(もよう)やうずまき模様(もよう)の石をさがすといいよ」
といいながら, お兄さんは長ぐつ姿で川岸に入っていきました。
 ぼくは,ずっと川原の石ころを見て歩きました。するとこんな石ころが
目につきました。
 なにかの型の化石です。「こんなにしましま模様(もよう)のある生き物って
なんだろう」と思いました。
 
 こんどは, お茶をのんで,ふと足もとを見るときれいなうずまき模様(もよう)
の石が目に入りました。
「これはすごい,うずをまいたきれい な貝の化石があったぞ」
と,ぼくはわくわくしました。 
  さっそく,大声でお兄さんを呼びました。お兄さんは,すぐにかけつけてく
れました。
お兄さん「けんたくん,なかなかいい化石をひろったじゃないか。これは,
       二つともアンモナイトという生き物の化石だよ。」
けんた 「お兄さん!これは何貝ですか?」
お兄さん「これは〈貝〉ではないのだよ。この化石の上のところをよく見てご
      らん。 うずまきのところがいくつもの
       〈小部屋(こべや)〉にわかれているだろ。」
けんた 「さざえを食べたことあるけど,さざえの身がぐるぐるっと巻いて出
      てきたことあるよ。」
お兄さん「そうだね。貝はぐっと奥まで続いているね。」 〈そうか,巻き貝と
       はちがう〉とぼくは思いました。
 
 お兄さんはカバンから図鑑(ずかん)を持ち出しました。
お兄さん「ほら,見てごらん。アンモナイトはこんなふうなかっこうで生きてい 
   たと科学者は考えているのだよ。     
     足や頭のあたりはイカみたいに見えない?」けんた 「そういえば    
   ,イカやタコの顔してるな」
お兄さん「それで, アンモナイトはイカ,タコと同じ仲間に科学者は入  
       れているのだよ。」                                 
けんた 「へー,ちょっとイカの仲間とは思えないよ。」
お兄さん「はじめは,アンモナイトもまっすぐな形だったらしいよ。それが,だ
     んだんと背中(せなか)を巻(ま)くようになったらしい。」
けんた 「アンモナイトって, ず
     っと昔の生き物だったよね。」
お兄さん「もう4億(おく)年も前からいたのだよ。でも,6500万年前くらいにみん 
      な海からいなくなったんだ。恐竜と同じだね。」
お兄さん「アンモナイトに近い昔の生き物は今も暖かい海に生きているよ。 
     オームガイとよばれているけどもちろんこれも〈貝〉ではないよ。」
けんた 「オウムガイって聞いたことあるよ。」
お兄さん「そろそろ,お昼にしようか。きょうは,いい化石を拾ったし, おにぎ
りもおいしいよ。」
 
お兄さん「食べ終わったらこの本でも見てるといいよ。」
 ぼくは, お兄さんが見せてくれたアンモナイトの本をぺらぺらめくって見て
いました。こんな変(か)わった生き物が大昔の海に生きていたなんてとても
不思議です。こんどはこんな絵が出てきました。
 これは,数億(おく)年も前の海底(かいてい)の図で, アンモナイトがたくさんす
んでいる絵です。
けんた 「お兄さん,もう一つ聞いていい?」
お兄さん「いいよ。どんなこと?。」
けんた 「この本の絵を見ていると,アンモナイトはこんなふうに渦(うず)巻きを
上に立て
て歩いていたの?」
 
お兄さん「そうなんだ。よく気がついたね。どうしてだと思う?」
けんた 「どうして横にたおれないのかなー。」
お兄さん「アンモナイトの殻(から)の中を見るとわかるよ。」
けんた 「殻(から)の中はいくつもの小部屋があったなー。」
お兄さん「そうだね。この小部屋には空気が入っているのだよ。」
けんた 「わかった。だから,空気は軽いので水の中では渦(うず)巻きは上に
      立つようになるのか。」
お兄さん「そうだね。」
けんた 「おもしろい。ぷかぷか〈背中〉を立ててアンモナイトたちは砂や泥(どろ)
      の上を歩いていたんだ。」
お兄さん 「そうなんだよね。なにかこっけいだけどね。」
お兄さん「さあ,またしばらくアンモナイトの化石をさがすか。」
 二人はまた化石さがしをしました。
 お兄さんは,ノジュールといって大きなまるい石のかたまりをいくつも持ってき
 ました。この中にアンモナイトの化石が入っているのだそうです。ノジュール 
 というのは化石のまわりに,カルシウムなどがくっついて固くなった石のことだ
  そうです。
                                                    
 帰りに,車がまだ山道を走っている時,お兄さんはアンモナイトの研究物語を語
ってくれました。
 
     ―アンモナイト化石研究物語―
 こうして,今の地層(ちそう)から出てくる昔の生き物の証拠(しょうこ)を〈化石〉と
いうよね。
でも,初めて人類が, こんな山の中で貝殻(かいがら)の化石を見たとき,どんなに
思っただろうね。きっと〈なんで,こんな山の中に貝のような形がでてくるんだ〉と
不思議がったと思うよ。
 しかし,いろんなことを考えていくと,
「どうやら,大昔,ここは海の底だったかも知れない。」
「その時生きていた貝の殻(から)が土の中に埋(う)まってしまっ たんだ。」
「そして,長い間にその海の底が陸地になったんだ。」
と, 考えるようになったんだね。
 けんたくん, こう考えたのはいつ頃のことと思う?それが,ずっと古くて,あのギ
リシャの時代からなんだよ。古代のオリンピックが開かれていたあの時代なん
だね。今から,もう2600年も前なんだ。
 しかし,残念ながら,その後科学は長い長い眠りの時代に入るのね。みんな神
が創(つく)ったものとされてしまったんだ。
 しかし,紀元(きげん)1500年頃になって,絵画(かいが)で有名なレオナルド・ダ・ヴ
ィンチさんなどが,「地層(ちそう)の中アンモナイトの化石を見つけて,昔このあたり
に広がっていた海にすんでいた生きものの化石だ」と,言うようになったんだね。
その後,だんだんと地層(ちそう)(時代)によって化石が違うことがわかってきたん
だ。
 アンモナイトはいつごろの海に棲んでいたか知ってる? 多くは,中生代と呼ば
れている恐竜の時代なんだ。
1億年から2億年くらい前だよ。そのころは,丸い殻(から)をもったたくさんのイカ
(アンモナイト)が,ゆっくりと海の底を泳ぎ回っていたんだね。ときどき, クビナガ
リュウなどの恐竜に追いかけられてたけどね。
 けんたくん!化石を掘ると,こんな大昔の生き物の姿が想像できるのだよ。
 
けんた 「ようし,ぼく, もっと化石取りしたいなー。」
お兄さん「そうだろう。ずっと大昔に生きていた生き物が今出てきたかと思うとわ
くわくするよね。」けんた 「またどこかに化石採りにつれていってよ。」お兄さん
「こんどは,かきの化石採りに行こうか。」
けんた 「やったー。」
 ぼくは,こんどはどこへ連れてもらえるか,わくわくしています。
                     おわ
 
 
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・参考資料(さし絵)
 山下昇著 『地球科学入門』(国土社1967)
 デビット・ランバート編・長谷川善和 他訳『化石の百科』(平凡社1988) イヴェット・ゲラール・ヴァリ著『化石の博物 誌』(創元社1992)
 三輪一雄著『アンモナイトは神の石』(講談社1998)
 早川浩司著『化石が語るアンモナイト』(北海道新聞社2003)
 
・参考意見
  次の方達のご意見を参考に改訂しました。
   「科学読物研究」大阪研究会参加者のみなさん
  「社会の科学」ML
    末丸千早さんとクラスの子どもたち,荒木達郎,田中一成,井藤    伸比古,池田毅司のみなさん
ありがとうございました。
 
 
                        04,11,3  西村寿雄